小 熊 座 句集 『地楡』 佐藤 鬼房
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  2005年鬼房展パンフレット・
仙台文学館   絵ハガキ 山田美穂さん提供





   句集  『地楡』抄   佐藤鬼房(自選)   昭和30年〜39年


        無為の波音裸木は首縊れぬ木

        逃水のごと燦燦と胃が痛む

        母の日の太陽液化して沈む

        蠶食の天ぼうぼうと自愛のいま

        望の夜の水上
(みなかみ)誰か遡る

        月光とあり死ぬならばシベリアで

        蝦夷の裔にて木枯をふりかぶる

          <嵐の幻影>より

        硝煙に記憶つながる十姉妹

        風説の泥流に羽化わが羽音

        亜細亜嵐の幻影となり蟇となり

        いつも遅れ着き晩餐の義眼拭く

        光年の速さで母を呼ぶ鹹湖
 
          <すべての悪>より

        瑕の歳月雲間から手が手が垂れくる

        灼石の影して開かぬこオペの戸

        夜明路地落書のごと生き残り
 
           <再生>より

    
        成熟が死か麦秋の瀬音して 
                                 
        白陶の海あり朝の鏃失せ

        白亜紀の青空を持ち乳房死ぬ

         風撓み風撓む夜の斬首
(くびきり)

        轍より血が噴く死なぬもののため
    
            

        杉の冷え杉の胎内暗からん

        赤光の星になりたい穀潰

        早死にの父の船唄夕桜

        生き死にの死の側ともす落蛍

        陰(ほと)に生(な)る麦尊けれ青山河

        じやがいもの花に言霊ねむりけり

        雹降つて悪魔の畑けむりけり

        貴子(うづみこ)や梅雨月の皎むたりしこと

        天姥(てんぼ)おりくるかけはしの青すずし

        冬泉暗しと梯子負ひ歩く
          
        わが博徒雪山を恋ひ果てしかな

        ひばり野に父なる額うち割られ

        山の尾のうすらあかりにかがむ父

        沫雪(あはゆき)の水際ばかり光りけり

        骨の軽さで牡丹の芽どき還りくる

        日に一度雪唐松はさびしい木

        雪山が追ふ幻の嶺二つ

        淡く紫老年と牡丹の木

        よるべなき俺は何者牡丹の木

        鉄砧(かなしき)の睡りはあるか雪解靄

        病むとなく眉間が痺る桐の花

        旧端午塩すべき胆すでになし

        青柿の上枝(ほつえ)に父の曠野見ゆ

        血が薄くなる脱穀の夕まぐれ






  
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